小坂顕太郎詩集
『五月闇』
小坂さんの「晴れやかな」光と「五月闇」をたたえた影を孕ませた言葉が深く根を張り、幹を太らせ花開き多くの人びとに届くことを願っている。(解説文:鈴木比佐雄 詩人・評論家)
栞解説文:鈴木比佐雄 |
A5判/128頁/上製本 ISBN978-4-903393-41-4 C1092 ¥2000E |
定価:2,160円(税込) |
発売:2008年11月30日
【目次】
第Ⅰ章 五月闇
五月闇
明 暗
遠 雷
あ た た か な 狼 煙
残 酷 な 眼
喪 中
逃 走 ソ ナ タ
ドングリと意思
野ざらし
鳥 類
三つの休日
月の肉声
第Ⅱ章 晴れやかな日
講 堂
昼夜のない部屋
鍵盤のみずうみ
river
最果ての君
花 街 ~その界隈
ヴぃ
砦
4つのデッサン
お空 チカチカ
かみなづき
オリーブのある部屋
晴れやかな日
あとがき
略歴
「五月闇」
五月闇はあまりに暗くて
まばらにともる貧しげな街灯ばかりが頼りだ
ここいらでひと休みしようと立ち止まるのだが
今しがたすぐ側を沿うて歩いた城壁までが見当たらない
五月闇はあまりに暗いのだ
頭のすぐ後ろに膨大な闇が連なって
ふとすると気が遠くなる
ふいに 匂い立つ悪意は
愚かで聞き分けのない 孟夏の精霊ドモのようようやって来たかと
寸時浮き足立ったが
すぐにそれは 不遜なアナタの残り香だと知って
慄いてしまう
音のない赤色灯が 時折とおくの水たまりを掠めていく
こんな夜更けに走り込みを行うジャージの若者の一団が
横顔を行き過ぎる
足元には白い髪の毛 白い睫毛の子供が二、三 へばりつき
堀に面して釣りをする者
乳母車を押す子守唄の
年増女の生活やつれした顔は
そのまま乗せられた赤子の寝顔のようで
舌打ちしてシャカリキに誰かを呼ぶ声は
他でもない私自身の呼び声だろう
しかしそれらはすべて闇の中の気配にしか過ぎない
通りすがりのつもりであったワタシは
シンピカ有頂天の自転車みたく無知であったワタシは
いつしか季節の狭間そのもののような
不鮮明なところへ迷い込んでしまったのだ
立ちすくむ五月雨はつめたくもあたたかくもなく
鼻すじを伝って正確に 同じ靴先へと落ちていく
暗がりの中でそればかりが よく見えた
無数の蛇が絡み合って 息苦しく
青白い炎に 灼かれている
ワタシにはもう どうすることもできない
五月闇はあまりに暗くて 途方に暮れる